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「──そんなに急がなくてもいいのに」
息を切らして「お待たせしました」と言う俺に、会長はクスクスと笑いながら「待ってたよ」と小さく漏らした。
会長の一挙一動全てがキラキラして見えて、こんな人と俺みたいな野球小僧が一緒に並んでいて良いのか、不安になる。
でも、笑顔の会長を見る度にそんな思いは段々と消えていった。
どこへ行くのかも分からないまま会長の隣を歩いていると、「堤くん」て優しい声で呼ばれた。
「何ですか、会長」
「その、『会長』って呼ぶの止めない?」
「え?」
思いもよらない言葉に、俺は何て返したらいいのかさっぱり分からない。
会長は会長であって、清泉の生徒会長様であるから『会長』と呼んでいるのであって……。
「もしかして、俺の名前知らないとか言わないよね?」
「そんなことないです!」
俺は全力で返していた。
好きな人の名前を知らない筈がない。
「じゃあ、神崎先輩って呼ばせて貰います!」
初めて、その名前を口にしたと思う。
名字だけなのに、珍しい姓でもないのに、それがその人の名前だと思うだけで、心臓が跳ね上がる。
顔が赤くなっていないか、それだけが心配だった。


