「おはよ、高槻」

「おはよじゃねーよ! てめぇ、どういうつもりだ。ああ?」

「ほら、俺の言った通りじゃん」


 廊下側を指させば、高槻もつられてそっちを向く。

 俺が指を指した先──学年一の秀才の神宮がこっちを……て、あれ。

 なんだか、物凄い冷たい視線で高槻を見てる?

 おかしいな。

 俺の予想だと、神宮はそんな顔しないはずなんだけど。

 未だに高槻の片想い、なんだろうか。

 夏休みに進展しただろうと思って楽しみにしてたのに。


「高槻、お前も大変だな」

「何が大変だって……?」


 物凄い形相の高槻が、俺の胸倉を掴んでくる。


「やー、人を好きになる、って難しいね」

「……知った風な口きくんじゃねぇよ」

「俺にだってね、好きな人くらいいるよ」

「てめえの話なんか聞いてねぇ!」


 高槻は不貞腐れたように俺から手を離すと、ふい、と窓の外に視線をやってしまう。

 よれた襟元を直しながら、俺は前に向き直る。

 HRが始まるまでもう少し。

 何気なく廊下側に視線を向けると、さっきとは少し違った表情で、神宮がこっち──高槻を見ていた。

 俺が神宮を見ていることになんて、全く気付いてない様子。

 何だか、羨ましくなってくる。

 俺の恋の方が、よっぽどハードル高いかも。