飛行機は霧の中にいた。
それが雲の中だとわかるのに時間はかからなかった。


不思議……
空に浮かんでいる雲の中に、今自分がいるなんて……




時折見え隠れする青にあたしの目は奪われていた。





その時だった―――
隣の席に誰かが座るのがわかった。
不意に感じる視線。そして気配。

ママが帰ってきたのかな?





うんん、違う。





震える手をなんとか抑えながら、おそるおそる振り返る。

履き崩したVANSのスニーカー。
パパのじゃない……

深いブルーのデニム。
これも……違う。








「…………」







うそ……



「な、んで……?」






やっと搾り出した声は、宙を舞う。
そして、飛行機の騒音にかき消されてしまった。





「――探した」




時が止まったように感じた。
瞬きすら、忘れてしまった。






―――― 要、がいた。







要は口角をキュッと上げてそう言うと、あたしを抱き寄せて。

そして、いつもみたいに面白そうに、最高に甘ったるい声であたしの耳をくすぐった。