「……昔の」

「え?」


立ち上がった美咲さんは、何かを思い出すようにそう呟いた。
そしてあたしに視線を落とすと、柔らかな笑みを浮かべる。


……ドキン


女のあたしでも胸がときめくその笑顔。
彼女が微笑むだけで、その場には春がきたようにあたたかくなる感じがする。



「昔の要を思うと、すごく変わったなって。
柔らかく笑うようになったし、無駄に色んな子と遊ばなくなった。
……なによりも、自分の願いを果たそうとして、それに突き進んでる」

「……」

「未央さんのおかげなんだろうな。要の変化は。
それにね。 あたしがジンさんを諦めたくないって思えたのは要のおかげなんだ。
誰かをひたすら想う気持ちを教えてくれた。
バカになるくらい……ね?」



そこまで言って、美咲さんは腕時計に目をやる。
それから小さく「あ」なんて言って、申し訳なさそうにあたしを見た。



「ごめんね……時間、過ぎちゃった」

「あ……いえ、大丈夫です。 きっと許してくれます」



あたしはカップの紅茶を口に運んだ。
もう冷めてしまって、ぬるくなった紅茶。


でも、すごく美味しくて。


甘い香りが口の中一杯に広がった。



「気づいた? それストロベリーティー。
この冬からのオススメメニューなの。 要のね」

「要の?」

「なんかアイツ苺にこだわってるみたいなの。 『甘酸っぱい香りは昔を思い出す。
すごく切なくて無性に愛しい』……って。
だから、是非あなたにも愛をおすそわけ」

「……」