カランコロン――
ちょうどその時、お店のドアが開く音がして、あたしは慌てて振り返った。
び……びっくりした。お客さんかな?
「……あれ? 君は」
聞き覚えのある声。隣に座っていた美咲さんの体がほんの少し緊張したように感じた。
―――ジンさんだ。
「あた……が……ましい」
「……え? なんですか?」
あたしがジンさんに気をとられていると、呟くように美咲さんが言った。
その言葉はよく聞き取れなくて……
あたしは、また美咲さんに視線を戻す。
「……」
「たしか……要の?」
――ドキン
『要の……』そんな言葉に胸がチクリと痛む。
ジンさん、あたしね?
もうあたしは要のものじゃないよ。
ダッフルコートを脱ぎながら、あたしを見つけて優しく声をかけてくれる人。
笑うと目尻の下がる感じが、すごく素敵で。
大人の男の人……そんな雰囲気がある。
「いらっしゃい、未央ちゃん。 ゆっくりしていってね」
「あ、あの……はい」
思わず顔が赤くなる。
ジンさんは爽やかな笑顔を残して、奥の部屋へ入っていった。
「あの人、あーゆう顔を悪意なくしちゃう人なの」
「はぁ」
美咲さんは今度は大きく溜息をついて、椅子から立ち上がった。
確かに。
あの笑顔……もしかしたら勘違いしちゃう人もいるかも。
ジンさんといい、要といい。
それに美咲さんだってそうだけど。
このカフェは、ある意味すごい人が揃ってたんだな。



