美咲さんの色っぽい唇に思わず目が釘付けとなる。
グロスがのっていて、美咲さんが言葉を発するたびにそれはキラキラと色を変えた。
「さっき要がここに来たの。 今日は非番だから来るはずないんだけど。
『うぃーす』なんて爽やかに入って来たと思ったら、あいつ 突然こう言ったの」
要がここに?
あれから全然連絡もなくて……
どうも、家にもあまり帰っていないらしい。
一体なにしてんのよ。
あたし……お正月が過ぎたらいなくなるかもしれないんだよ?
でも、要はあたしに会いに来ない。
連絡もくれない。
それが……『要の答え』
あたしはただ、美咲さんの言葉に耳をかす。
「……え?」
「聞いてなかったの? あいつ、今日いきなり来て 『俺、バイト辞めます』って……。まったく、非常識にも程があるよ。 文句の1つでも言ってやろうと思ったのに、その理由聞いて納得しちゃった」
そう言うと、美咲さんは肩をすくめた。
理由?
理由ってどんな……?
「それから」
時計を見て、美咲さんは早口に言うとあたしを見た。
「あたしがここに入った理由だけど……
あたしね? 実はジンさんが好きなんだ。 ジンさんと少しでも一緒にいたくて要に無理言って、入れてもらったの。もちろん、要はすごく反対してたけど」
「反対?」
まさか、と思う。
その時、要はまだ美咲さんが好きでジンさんと仲良くなって欲しくなかった。とか?
勝手な妄想があたしの頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えた。
美咲さんは少しだけ悲しそうに笑うと、こう続けた。
「ジンさん……ね、結婚してるんだ。
あたしわかっててジンさんを知りたいって思った。 迷惑だよね、綺麗な奥さんがいるのに、あたしみたいな女が近づいてきたんだもん。 ジンさんは……あたしの気持ちに気づいてる。
――要は、あたしが傷つくのわかってるから……だから反対してくれた」
「……」
美咲さん……
彼女は笑っていたけど、あたしには泣いているように見えた。



