顔面レベル100の幼なじみと同居なんてゼッタイありえません!


大きな瞳に見つめられて、あたしはゴクリと唾を飲みこんだ。
遠慮がちに、でもその瞳の奥からは、芯の強さを感じ取れた。


美咲さんは、少しためらいながらその形のよい唇を開いた。


「……今日は要と一緒じゃないんだ」

「え?」


そう言うと、美咲さんは早苗や旬、それに結衣達に視線を送った。



“要” そう呼んだ。


あたしの頭の中に『要の前の彼女』と言う単語が浮かび上がる。


――ズキン


それと同時にチクリと何かが胸を締め付けた。



「要ならいません。あたしと要は別にそんな関係じゃないですから」


「未央っ!」



早苗の呼び声に、あたしはハッとして口をつぐんだ。

あたし……なにを?

旬も、結衣達も誰も声を発する事が出来ずにいる。
重たい空気がこの場を包んだ。


なんで『そんな関係じゃない』なんて言えたんだろう。


……うんん、わかってる。


これは単なる嫉妬だ。 あたしの醜い嫉妬。


この人はきっと、要の全てを知ってる。
まだあたしの知らない要を。温もりを。
それを思うと、胸の中がつぶれそうになって頭に血が一気にのぼっていった。

そして。
気が付いたらそんな事を口走っていた。


“しょうがない”


そう言った要の背中が不意に浮かんで、暗闇に溶けてしまった。
そんな一言で、あたし達の関係は……
あの約束がなかった事にされちゃったんだから。



「未央……」



早苗の声に心配の色が混じっている。
顔は見なくてもわかる。ここにいる誰もがあたしを見つめている。




「クスッ」



そんなあたしの様子をじっと見つめていた美咲さんの小さな笑い声が耳に飛び込んできた。

顔が一気に火照っていくのがわかる。



なに……よ。

なんなの?



あたしは下唇にキュッと力を入れて、美咲さんを見上げた。
瞳から涙が零れてしまわないように。