店内に入ると、コーヒーの香りとチョコレートの甘い香りに包まれた。
前にここに来てから、まだ1ヶ月も経っていないと言うのに、すごく懐かしい感じがした。
薄暗い店内にはジャズがかかっていて、落ち着いた雰囲気。
黒いテーブルに赤いソファが一際目を引いた。
何も、変わってない。
いつも常連さんがいたカウンターには、誰もいなかった。
黒いシフォンのカーテンで仕切られた個室には、カップルや女同士のお客が2組座っているだけだった。
そうか……
今日は大晦日だったんだ。
だからかな? お客さんが少ないのは……
店内を見渡した所で、1番奥のテーブルで目が留まった。
「あ……」
「来た来た!!未央~~! こっちこっち☆」
ブンブンと大袈裟に手を振るのは、愛美だ。
その隣で小さく手を上げたのは早苗……結衣もいた。
旬の友達もいて、あたし達を見つけて大きく手招きをしてる。
「みんな……どうして?」
「激励会……ってやつ?」
呆然と立ち竦むあたしの背中を、旬は優しく促した。
うそ……
嬉しい……
涙ぐむあたしを見て、旬は「泣くには早いだろ」と笑った。
「もぉ~未央!いつまでもそんなところにいないで……早くこっちおいでよ! ほらほら、ここ座って~」
そんなあたしの姿に、愛美は目尻を指で拭いながら自分の隣を叩いた。
ありがとう。 みんな……
あたし、1人じゃないんだね。



