振り返ったあたしの視線の先にいたのは、旬だった。
自転車にまたがった旬はスムーズにあたしの目の前で止まった。
「今帰り?」
自転車を降りながらそう言うと、あたしの顔を覗きこんだ。
「・・・・う、うん」
その光景が昨日の旬の姿とリンクしていく。
あたしは、慌てて足元に視線を落とした。
「相田は?一緒じゃないんだ」
旬は、周囲に視線を巡らしながら尋ねた。
「うん。今日はバイトなんだって」
―――そう。
帰る時、あたしの教室に来た要は「今日は遅くなるかも」
・・・そう言って先に帰って行ったんだ。
そんな事を考えながらぼんやりしてるあたしを、じっと見つめていた旬は、何か考えるような表情をしてこう言った。
「じゃあ一緒に帰ろ。俺、送ってくし」
「え?」
旬は悪戯に笑うと、自転車の荷台をパンパンと叩いた。
「いッ・・・いいよ、そんな。悪いよ」
あたしは慌てて目の前で大袈裟に手を振って見せた。
無理無理!
旬と一緒に帰るなんて・・・
しかも自転車二人乗り!!
絶対無理だからーー!!
「いいから。ほら、早く」
そんな無言の抵抗もむなしく、旬は慣れた手つきであたしから鞄を抜き取った。
そして無理矢理あたしを荷台に乗せると、自転車はスムーズに滑り出した。
「しっかりつかまってろ~」
「わッ」
あたしはバランスを崩しそうになって、慌てて旬の体に腕を回した。
はッ!
これは、まずいでしょ~?
楽しそうな旬の声が、あたしの耳に届く。
あたしは、そんな旬の笑顔を見て、何も言えなくなってしまった。