あたしの思考回路は緊急停止。



……って。
なんとかしなきゃ!



離れようと力を入れると要はギュッとあたしの体を引き寄せる。
強い力。
到底かなうわけない。


小さなあたしの体は要の腕の中にすっぽりと収まってしまう。


「……ちご」


え?

ちご?

いちご?


なんだろ、すごくいい香り。
男の子なのに何でこんな甘い匂いがするのかな?

でも、いちごとはちょっと違う気がするけど……。

頭がクラクラして、意識が朦朧としてきた。


ううう……。


「起きてっ 起きてってばっ!」


あたしは要の体を力任せに叩いた。



「……いてッ! ……ちょ、やめろって」



ポカポカと叩いていたあたしの手を、あっさりと要の手が捕えた。

あたしの腕をしっかり捕まえ、それでもまだ眠そうに片目を開けた要と視線がぶつかる。


「お、おは、おはよ」


なんと言っていいかわからず、とりあえず引きつった笑顔を作る。

要の顔が目の前にある。

あたし達は布団の中で抱き合うようになってしまっている。

要はいまだ、あたしの顔をじっと見つめてる。


どうやら、この状態が理解できていないらしい。


「……」


ドクン
ドクン
ドクン


あたしは、異常なほど瞬きを繰り返してしまう。


「……はよ」


そう言って、要はふっと手の力を緩めた。
ようやく要の手が離れて、あたしはあわててベットから降りる。



「……俺さ、なんか変な事言わなかった?」


要は寝癖の付いた髪をクシャクシャと掻きながらあたしを見上げた。

あたしは一瞬考えてこう言った。


「そういえば“イチゴ”って」


髪を触っていた手がピクリと止まる。
少しだけ目を見開いて、何度も瞬きをした要は、あたしの表情を伺ってるようにも見える。


……え?
当たり?


……――でも

要は呆れたようにあたしを見ると、はあっと溜息をついてベッドから立ち上がった。



「……お前、アホだろ」


「……」