竜の箱庭

シィは身震いして座り込んだ。
そんな重大なことを決めなくてはならないなんて、シィには荷が重いと感じた。
そうでなくても、この数日であまりにも色々なことがありすぎたのだ。
混乱する頭を必死に働かせながら、シィは答えを探した。

「…私、父さんや母さん、ネリーとあの村で静かに暮らしていたかった。いつか平凡な結婚をして、子供を産んで、そしてその子供がまた子供を産んで…。ありきたりかもしれないけど、そんな未来をずっと想像していたの」

「……」

「ニンゲンは、怖い。ネリーをあんな風にしてしまった。リルテノールや、他の竜たちを追い詰めてしまった。とても怖いわ。だけど…それでも、優しい人たちがいるの。セインのように、ネリーのように。だから私、どっちかなんて、選べないわ…」

シィは震えながら、やっとの思いでそう言った。
それが正しい答えなのか、シィにはわからなかった。
ただ、今の正直な気持ちだった。

「…人間は、竜に頼りすぎていたのかもしれないね。竜たちが深い眠りについて、大地が荒廃していっても…自らの力で切り開いていく力をつけなくてはいけない」

「私、難しいことはわからないけど。でも、来訪者…いいえ、竜の欠片が人間たちに醜い心を呼び起こすのなら、彼らが悲しい思いをしないためにも、欠片を人間の手に渡さないようにする方法はないのかしら」

シィの言葉に、竜たちは驚いた様にシィを見つめた。

「…それでは、我らは常に人々を見守る術を持たなくなる」

「…だが、秩序を塗り替えれば人間たちもまた我らの力を無益に引き出すことも叶わなくなる」

「欠片を残さないと、あなたたちはどうなるの?」

シィが問いかけると、竜たちは少し思案して口を開いた。

「欠片は即ち器にもなり得る。今使っている器が壊れれば、次の器に乗り換えるのだ」

「欠片を残さないという事は、今の器が壊れれば修復するまでの間…本当に永い時を眠り続けなくてはならない」

「今の眠りとは違うの?」

「違うな。眠りの期間が永い」

「果たして目覚められるのか、それは我らにもわからぬ」