竜の箱庭

「それは、どういう…」

シィは戸惑いつつ問いかけた。
セインが小さな溜息を零すと、懐から一枚の紙切れを取り出した。

「エルシア。前に君は、この紋章を知っていると言ったね?君の背にあるものと同じだと」

それは、あの寂れた村でシィが見た紋章と同じものだった。
シィはゆっくりと頷くと、困った様にセインを見つめた。

「つまり、そういうことなんですね。ハリエスト、デルスト」

「え…?」

シィが尚も戸惑っていると、竜たちはゆっくりと微笑んだ。

「お前は選ばなくてはならないのだ、エルシア」

「お前こそがあのお方の欠片であり、あのお方そのもの」

「あのお方…って?」

シィが問い返すと、竜たちはシィの手を離し互いの目を見詰め合った。

「最果ての竜、原初の竜-…呼び方は多々あれど、あのお方に名はない」

「お前は選ぶのだ。ニンゲンを生かすのか、我ら竜を生かすのか」

突拍子もない言葉に、シィは目を見開いた。
自分が実は竜なのだと言われて、そうですかと大人しく頷けるほど、シィは頭が柔らかくはない。
どう答えていいかわからずにいると、セインがそっとシィの肩に手を置いた。

「エルシア…」

「あなたは、知ってたの?」

「確信がなかった、と言ったね。昨今の天変地異や、原初の竜がもうずっと姿を隠していたことや、君のこともあって、そんな気はしていた…」

「私、選べないわ…」