竜の箱庭






 「ネリー!」

叫ぶようにして身体を起こすと、そこはまた見知らぬ場所だった。
傍ではセインが倒れたままになっていて、少しの期待を込めて辺りを見回したが、ネリーの姿はなかった。

 ややあって、ゆっくりと辺りの様子を探ってみるが、その場所を形容する術をシィは持っていなかった。
ただ例えるならば、光と闇がマーブル状に交じり合った…不思議な空間だった。

「エルシア…大丈夫?」

いつの間に気がついていたのか、セインにそう尋ねられ、シィは小さく頷いた。

「…あなたは?」

「大丈夫」

「ここは?」

「…恐らくは…」

セインが言いかけると、奥から唐突に声が聞こえた。
奥、といっても、距離を比較するようなものがあるわけでもなく…ただ、遠くから小さな笑い声が聞こえてきた。

「今の…」

「良く来たな」

「待っていたよ」

あまりにも直ぐ近くで聞こえた声に、シィは思わず飛び上がった。

「だ、誰?!」

「誰とはあんまりだ」

「お前たちを支えている、この空間こそ我らだ」

「…ハリエストとデルスト…。生と死を司るとも言われ、恐らく竜たちの中で、最も永い時を生きている竜だよ」

セインに言われ、シィは頷いた。
実際には、順応できていない、というだけなのだが。

「…お前たちが来た理由はわかっている。だが残念だが、あのお方は未だ眠りの中。門を開いたとてお会いすることは叶わぬ」

「そもそも、あのお方へと至る道は、如何にセインといえども歩む事は叶わぬ」

「では、どうしたらいいのです?この世界に竜の秩序を取り戻す為には…貴方たちの力の欠片を、これ以上危険に晒すわけにはいかないのです」

セインが問うと、竜たちは笑ったようだった。

「それは簡単な質問だな」

「ニンゲンが滅びてしまえばいいだけのことだ」