竜の箱庭

「おや、この可哀相な薄汚れた少女の手を取らないのですか」

アイデンが冷たい声で言う。
セインが思わず顔を顰め、自身の背後にシィを庇うように追いやった。

「…よくわかりました。それがお前の答えですね、セイン」

それが合図だったのか、傍に控えていた兵士達が一斉に剣を抜いた。
ネリーはその音が余程怖いのか、途端に悲鳴を上げて蹲ってしまった。

 シィは見てしまった。
ネリーの背に刻まれた、幾筋もの生々しい傷跡を。

ぎゅっと瞳を閉じ、恐怖で震えるしかない自分自身を歯がゆく思っていると、そっと皺だらけの手がシィの手を握った。

「…サドラル?」

震える声で問いかけると、サドラルはうっすらと微笑んで見せた。

「…あやつらに、私の姿は見えぬのだ。本当に、哀れな者たちだ。よいか、娘よ。お前は来訪者などではない、もっと重要なモノだ。今から門を開く。私にはそこまでしか出来ぬが-…よいな、セイン」

「お願いします」

セインが前を見据えたまま言うと、サドラルがまばゆく輝いた。
思わず、広間に居た者たちが目を閉じる。

「待って…!ネリーも…!」

シィの声が、虚しく虚空に飲み込まれていく。
眩しさに開けられない瞳をもどかしく重いながら、シィはゆっくりとその意識を手放すしかなかった。