竜の門番…また聞きなれない単語に、思わずシィは目を細めた。
青年は、そんなシィを見て合点がいったように頷いた。

「…君は、来訪者かな」

セインの言葉に、シィは警戒心を露にして飛びのいた。
セインは微笑むと、安心させるように両手を挙げた。

「安心して。君を王都に連れていったりはしない。正直…この頃の国王陛下のやり方には僕たち門番も困っていたところだ。こんな、罪もない人を傷つけてまで…」

セインはそこで言葉を切ると、優しくシィの頭を撫でた。
ルードがそうしてくれたように、慈しみのこもった瞳で。

「私…何も知らない」

シィはそれだけ言うと、俯いた。

「そうだろうね…。エルシア、と言ったね。行くところがないのなら、私とおいで。王都の人間が追ってくるだろうが、私と一緒なら少しは安全だ」

「…信用、出来ないわ」

「今はそれでもいい。ただ、君を守ってくれようとしたこの人の為にも、君は今は生きなくちゃ」

優しく諭され、シィは渋々頷いた。
王都の役人に引き渡すつもりなら、恐らくもうやっているだろうと思えた。

「…いい子だね。それじゃあ、私の旅に同行してもらうけど…君はいつ頃この世界に?」

「知らない…っていうか、私…、多分来訪者じゃない」

「それはどういう意味?」

セインが不思議そうに尋ねてくる。
シィはそれ以上答える気もなかったので、静かに首を横に振った。

セインもそれ以上聞き出そうとはせずに、わずかに頷いただけにとどめた。

 不思議な人だ、とシィは思った。

普通なら、こんな夜の森の中、血まみれの女性の傍で泣いている少女なんて放置していくだろう。