「カズ。」
「…何。」
ゆっくり振り向いた先には、ほら、やっぱり。
俺が何年も片想いを続けている、幼馴染みのナツ。
純日本人のくせに、ハーフのような、クォーターのような日本人離れした顔立ちで少し釣った目。
焦げ茶色の、癖のついたセミロングヘアー。
風のせいで顔にまとわりつく髪の毛を、うざったそうに耳に掛ける仕草に一瞬目を奪われる。
「もう、授業始まったよ。」
「…知ってる。ナツはなんでいるの?」
「先生に頼まれたから。」
そういえば五限は古典だったっけ。
あの口うるさいオバサン先生に、いつまでも戻らない俺を探しに行けと頼まれたんだろう。
何が面白くて平安時代の読み物なんて読まなくちゃいけないのか。
口を開かない俺を不審に思ったのか、ナツがいきなり顔を覗き込んだ。
「聞いてる?戻らないの?」
ふわっという効果音がぴったり合うその仕草に、みるみる上昇する俺の体温。
「…保健室にいるって言っといて。」
こんな言い訳はもう何度も連続で使っている。
ただ、赤くなった顔を隠すのに必死で他に思い浮かばなかった。
「わかった。」
口元だけでにっこり笑って、くるりと踵を返す。
ナツは無口だ。
無駄なことはあまり喋らない。
たまに見せる笑顔が俺の中では殺人級に可愛い。
そんな猫のような、ギャップの持ち主である。
「…たばこ、やめてね。」
そう言って閉まった屋上の固い扉。
ナツがやめろと言うなら、習慣化したたばこもやめれるかもな。なんて。