ねぇ、キスして？

それと同時に、無意識に眉を寄せていたらしく、彼は慌てたように口を開いた。



「でももう、忘れたから。奈留に出会って、奈留の笑顔に癒されて、俺の中で奈留の存在が大きくなっていって……いつの間にか彼女のことは、忘れてた」



そう言った彼の表情は、さっきとは売って変わって清々しいほどに爽やかな笑みを浮かべていて。



「奈留のお陰。彼女のことを忘れられたのも、こうやってまた人を好きになれたのも」



そう付け加えた彼は、そっと手を伸ばしてきてあたしの頬を包むように触れた。


こっちを真っ直ぐに見つめているやさしく細められた瞳を見ていたら、静かだったあたしの鼓動がどきどきと動き始めて、その音が少しずつ大きくなっていった。


その音を感じながら、疑問に思うことを聞いてみた。



「もう子供には会いに行かないの？」



あたしがそう言うと、瞳を伏せながらゆっくりと首を横に振って……



「 ……近いうちに会いに行こうと思うんだ。もう、彼女に会っても大丈夫だと思うから 」