「ユイ…まさかお前…?」

「あの手紙…私が出したんじゃないわ」


 組んでいた腕を下ろすと、ユイは言った。


「私が組織で一番信頼していた部下…私専属の秘書だったんだけど、彼女が勝手にとった行動だった」


 そう言うユイは、どことなく悲しそうだった。


「彼女は今、ウチの部下が拘束しているわ」

「じゃ、一体誰があの手紙を寄越したんだ? それに、なんでお前がそのことを知ってるんだよ?」

「手紙を出したのは、私の母よ…」

「母親?」

「そんなことはいい。とにかく、あの場所には行かないで」


 ミサトは、ふとユイの態度が気になった。

 いつも冷静なユイが、何故か今は感情的になっている。

 信頼していた部下が、自分を裏切った。

 それはショッ クな事実だろうが、裏の世界ではそんことは日常茶飯事だ。

 この街を取り仕切る組織のボスが、こんなことでこれほどまでに気持ちを乱すとは思えない。