妙にドキドキしながら言い訳でもするように澄香は拭き取ったばかりの血を前に突き出した。
「襟につきそうだったから…っ」
結構な量の血に彼も少し目を丸くする。
「わ、…ごめんな。」
ティッシュを受け取りながら彼が初めて顔の筋肉をふわりと緩めた。
ほんのちょっと、ちょっとだけだったけど。
わ…
なんだか喋っているのも恥ずかしくなってきて、澄香は急げる最大限のスピードでペチンと傷にばんそうこうを貼って席を立つ。
そして、
カバンを掴み、逃げるように叫んだ。
「じゃあねっ竹井くん!!」
「…滝井だけど。」
「!」
う、
う、
うわーっやってしまった…っ!!
澄香はそのまま校門までダッシュ。
…そして、
現在にいたる。
一通り歌い終わって、帰宅の準備を始めながらまた澄香は窓からこっそり軟式野球部を見つめた。
あれから一年。
滝井君とクラスも離れてしまって、いよいよ接点がなくなった。
もちろん、あれだけで滝井君を好きになった訳ではない…と思う。
たまたま軟式野球部が練習する近くの校舎の中にコーラス部があって。
なんとなく目で追ってしまって…。


