「…全部、聞こえてた?」
「…うん。まぁ、だいたいは。」
「…いつから?」
「…え、千葉がコーラス部に入部してから、かな?」
「…。」
「…。」
「…。」
「…………千葉?」
絶句して全く動かない澄香を滝井くんが覗き込むと。
「………ぅギャーーッ!!」
澄香はとうとう、叫びながら逃走した。
「千葉っ!!」
バタバタバタバタと普段からは考えられないスピードで廊下を走る。
信じられない信じられない信じられない!!
全部聞こえてたの?
この一年、筒抜けだったの?
く、
胡桃のバカーっ!!!
友人の声量に初めて恨み事を飛ばしながら澄香は恥ずかしさで瞳に涙を滲ませる。
そしていつもの駅のホームにぼんやり立ちながら、ほんのちょっと冷静さを取り戻し、思った。
逃げちゃった…。


