恋とくまとばんそうこう


「…へっ?…っ」

もう、色んな事が突然過ぎて頭が回らないのに。

振り返った澄香の目に飛び込んできたのは、いつだって心を掴んで離さないその瞳で。

「…なんで俺がこんな用もない場所にいると思う?」

「え…。」

じっと真っ直ぐ見つめられるだけで、澄香は海に投げ込まれたように苦しんだ。



「俺、人より耳が良いんだ。」

「………………へ?」

突然話題が変わって、澄香は思わずきょとんとする。

掴まれた左腕はそのままに、滝井くんは少し言いにくそうに視線を逸らした。

「その…。千葉の友達の“胡桃”って子、声デカいよな…。」

「え…。あ、うん…割と…。」

…え、何…もしかして、

“胡桃の事が好きでした。”って事なのだろうか。

それは…。

ちょっと悲しすぎる。

めまぐるしく回転する脳みそに、澄香が半泣きになりそうになっていると、滝井くんは更に言いにくそうにチラリとこちらを見た。