「怪我、ないか?」
な、なんで?
なんで滝井くんがこんな所に…。
澄香は唇が思わず震えた。
「だ、大丈夫。…滝井くんは?」
練習着を詰め込んでいるのであろうパンパンのバッグを脇に抱えた彼の足元から、勇気を振り絞って視線をあげてみる。
フッと微笑んだ彼の口元に更に脈が早くなった。
「俺は転けてないから。」
「あっ、そっかっ。………え?!」
どこも怪我していないと笑う彼の頬から何故か、一筋血が滲んでいる。
…あっ!楽譜…っ!?
さっきまでヒラヒラ舞っていた切れ味の良さそうな真新しい楽譜が目にとまった。
「ごめん…っ!」
んあ?と不思議そうな顔をする彼をよそに、澄香は慌ててカバンを漁り、手近にあった絆創膏をペタリと貼る。
あ、なんだかデジャヴ…。
澄香の脳裏にあの懐かしい光景が流れ出した。
「本当ごめん…スコアで切れちゃったみたい…。」


