恋とくまとばんそうこう



澄香はヘラリと笑って音楽室の掃除を始めた。

胡桃ぐらい伸びやかに声が出たらなぁ。

そんな気持ちで今日もみんなが帰った後少しだけ一人で練習する。

新しい、歌。

発声練習に近い、大会で歌うものとは違う簡単な譜面をカバンから取り出し、薄暗い教室で自分の声とだけ向き合う。

澄香はこの短い時間が好きだった。







…いつものように少し歌った後、沈みかけた夕日を見ながら廊下を歩く。

わー、綺麗。

良く晴れていたせいか、直接的な光が澄香の目をキラキラと焼いた。

手に真新しい楽譜を持ってカサカサいわせながらオレンジに染まった廊下をぼんやり歩く。

遠くでサッカー部と硬式野球部の声が聞こえた。

…軟式の方は、終わっただろうか。

あの真っ直ぐな、吸い込まれそうな瞳をぼんやりと思い出す。

この夕陽みたいだなと思った。

彼と、この柔らかいのに強い光は似ている。

そんな事を考えていたら、左に曲がる角でドンッと体に衝撃が走った。