「全くエルゼさんには敵わないな」
「黙れ、さっさと開けろよ」
「分かってるよ、セル。そっちこそ開いてないじゃないか」
「お前より開いてるだろ。口より手を動かせ、ラボ」
そんな声で、俺は扉を開けた人物を特定する事が出来た。
「何勝手に開けてやがる、ガキ共!」
「仕方ないでしょ。あんた、エルゼさんに負けそうなんだから」
「何だと?」
「見て分からないなら重傷だ。俺たちはエルゼ側につく」
いつだったか、ずいぶん昔の話になるが、俺は路地に倒れ込む二人の男を見つけたことがあった。その二人は何処かの刑務所にあるような足枷をはめていて、その枷から伸びる鎖は二人の男を結び付けていた。
五十メートルも離れられない二人だったが、たいそう仲は悪く、目が合えば口喧嘩を、肌が触れれば殺し合いならぬ喧嘩を始めていた。出会ったのがいつだったかは覚えていないが、俺はその男たちの名前なら未だに覚えている。
「裏切る気か、サイアン・セル!」
「ここでエルゼに殺されるなら裏切った方が良いだろ。それに何度言えば分かるんだ。俺の名前はサイアン・セルロイドだ」
「……レッド・ラボ! お前もか!」
「俺の名前はレッド・ラボラトリーだってば。呼ぶならそれかラボで頼むよ」
そう。裏社会最凶とボスは言っていた気がする。
サイアン・セルロイドとレッド・ラボラトリー。
何処から来たのか、どうして枷をはめているのか、歳や隅かでさえも知れない男である。彼らを見つけて、俺はどうしたか覚えていないが……多分今回のアーシュトレイみたいにボスに連絡を取ったのだろう……セルとラボは思考の中で悪を善に変えてしまう人だった。人殺しが悪いと言う根本を彼らは持っていない。
不思議な考えの持ち主だ。否、愚かと言うべきか。
「さあエルゼさん、後は俺らに任せて下さい」
「お前ら、あっちについてたんじゃないのか?」
「俺たちはボスが来るって言うから待ってたんだ」
「エルゼさんを殺せって言うなら、初めから協力してないって」
「あんたに受けた恩は忘れちゃいない」
「それに俺たちはエルゼさんを殺せる気がしない」
彼らは扉を全開まで開けた。
「金で釣られてなきゃこんなバカげた事しない」
「なのに金なんて一銭たりとも回って来ないんだよ、酷くない?」
俺は辺りを気にしながら二人に近づいた。拳銃は握ったままである。引き金を引けば二人くらいすぐに殺してしまえる握り方だ。だが二人は警戒しない。
「エルゼさん、ボスは此処にはいませんよ」
「そんな事はもう知ってる。何処にいるかが知りたい」
「それは知らないが、誘拐は本当だ。あいつがやった」
「とにかく行って。まだ間に合う」
あいつ、とは?
何が間に合うのだ。聞きたい事は山ほどあったと言うのに二人は俺を倉庫から出して扉を閉め始めた。
彼らの背後では裏切りを認めた元仲間たちが武器を構えて彼らを睨みつけていると言うのに、そんな事は一切お構いなしで二人は扉を動かし続けている。大丈夫なのだろうか。
「セルはともかく、ラボ、お前武器も持たずに……」
「気にするなエルゼ。ラボは俺より強い」
何を根拠にしているかは定かではないが、セルはそう言って、扉を閉めるのを中断すると倉庫の外側に、俺の隣に立った。だが鎖があるせいで扉を閉め続けるラボとは繋がったままである。



