幸せの選択

「ここは、学生時代に初めてバイトさせてもらった店なんだ」


「そうなんですか?」


「うん。時計に興味は無かったんだ。でも、あの人に興味があってさ」



そう言って要さんは、奥に座る店主の顔を振り返る。





「俺が育った施設にさ、大きな置時計があったんだ。今どき珍しいゼンマイ式のね。古いものらしくてさ、あの人がよくメンテナンスに来てたんだ。

時計のメンテナンスが終わると、必ず俺たち相手に世界中を旅したときの話をしてくれたんだ」




私に向かって話しているけど、その視線の先には懐かしい光景が浮かんでいるようだった。




「俺はさ、あの人のおかげで世界が広いってことを知った。だから、今の自分で終わらないって子供心に思えたし。

だから、高校に入ってすぐにココに来て働かせてほしいって頼んだんだよ。もっといろんな話を聞けると思ってね」