「あなたは大変見目麗しいお方だ。今宵はちょうど千年目。絶対に夜に近づいてはなりませぬぞ。」
そう言って、老人は去っていった。
「しかし、それは気になるな...」
この目で見てみたい。そこで宗彦は今宵、この滝に行ってみることにした。
そして、皆が寝静まった頃宿を抜け出し、滝に向かった。滝の水は白い絹糸のように垂れ下がって流れており、月明かりの光に照らされて昼とはまた違う美しさがあった。宗彦は夜の滝に見惚れていると、なにか、滝壺に立っている影を見つけた。不思議に思い、滝の側まで降りてみると、それは人かと思ったのだが、違う。それはそれは美しい銀の毛の狐だった。
「なんと美しい...」
しかし、次の瞬間に狐の体がパアーッと光り、みるみる内に瞬く間に銀の髪を持つ女の姿へと変わった。
『今年は呉服屋の息子...』
女がそう、言った。宗彦は初めはこの言葉の意味することがわからなかったが、はっと思いついた。
(そうか、連れ去る男だな)