あの一瞬に私の身に何が起きたのか、理解する事は出来なかった。
 その後は目撃証人として警察に事情を聞かれたが、私はあまり何を言ったのかを覚えていない。だって、私はあの車の間に居たはずなのだし。
 ちなみに、二台の車の運転手は命に別状はないそうだ。

 結局、家に着いたのはすっかり暗くなってからだった。
 勝手に装着させられた物とはいえ、他人の物を失くしてしまった後ろめたさもあり、より帰るのが遅くなったのだ。
 「おかえりなさい」
 手紙を待つように、お隣さんは自分の家のポストの前で本を片手に立っている。
 「ただいま……です……」
 私はバイクを止めながら返事を返す。
 いつもと変わらない表情で微笑むお隣さんに、私はメットインからコンビニで買ってきたブタメンを袋ごと差し出した。
 「これは?」
 「ブタメンです」
 不思議そうな問いに、俯いたまま返答する。
 「高級品だね」
 小さな笑いと共に、袋を受け取るお隣さん。
 「あの、朝の首輪なんですけど……」
 「無くなったでしょ?」
 意を決した発言であったのに、当たり前の事をいう様に続きを言われて少し面を食らう。
 何故知っているんだと思いながら、唖然と頷く。
 するとお隣さんは自分の着ているハイネックの首を引っ張って、少しだけおろした。
 「死神はね、色々いるんだ。でも、一つだけ共通していてどれも首を持っていく」
 そんな言葉を発している、ハイネックの下の首には細く包帯が巻かれていた。
 「一々、首輪を持っていかれたら100均でも馬鹿になりませんからね」
 そう笑うお隣さんであったが、そんな私達の傍を誰かが音もなく通り過ぎた気がした。
 それと同時に、ハラハラと解ける包帯。
 『チッ』という舌打ちにお隣さんは両手をあげながら苦笑してみせた。
 そんな隣人の姿を見ながら、私は出来れば死神などというものとの縁は作りたくないと願ったのである。