「見つかったよー」とさっきの子が声を掛けると、一緒に遊んでいた子供達が一斉に、当時私達が地球儀と呼んでいた遊具に集まった。
 息をのみながら私は子供達の行動を追う。
 すると、1人があの鉄屑を支柱の上に置いた。その途端、誰も回していないのにゆっくりと、地球儀は回転を始め、そのスピードは段々と早くなっていく。
 かなりの遠心力が掛かっていそうなのに、そんな力を無視しているかの様に子供達は楽しそうに何か話をしている。
 そして、鉄屑を受け取った子供がこちらを向いて大きく手を振った瞬間、テレビの電源を落とした様に地球儀はその場から消えた。その場所には、地球儀が存在していたという跡だけが残され、私は唖然とする事しか出来なかった。
 「あれは、一体……」
 呟きにも近い疑問に、飄々と返答をくれたのはもちろんお隣さんである。
 「宇宙人。だったんじゃないですか?」

 ――――……帰り道。
 私はお隣さんと、コンビニで買ったうまい棒を食べながら歩いていた。
 「なんだか私、悪い事してたのかな?」
 乳白色の空を見ながらそう呟く。
 「なんでそう思うんですか?」
 歩きを止める事なく、お隣さんは私の方を見てそう尋ねてきた。
 「だって、私があの鉄屑を持って帰ってしまったから、あの子達はずっと、10年以上もあれを探し続けてたんでしょ?」
 私の答えに、お隣さんは目を細めて微笑む。
 「はたして、そうでしょうか?」
 どこかの探偵か教授が言いそうな口調で言葉を口にしながら、お隣さんは空を見上げる。
 首を傾げて、私はお隣さんの背中を眺めた。
 「地球外の知的生命体の考えなんて、僕達にわかるものではないですよ。人間同士だって、沢山の考え方があるのに、地球外生命体の考えまで僕達にわかる訳がないです。
 それに、あの子達は楽しそうだったじゃないですか。だから、僕は彼らはわざとあの鉄屑を拾わしたんじゃないかと思いますよ」
 言葉を終えたお隣さんはこちらに笑みを向けた。
 この人は私を慰めようとしてくれているのだろうか? それでも、私は悪いパターンの《もしも》を考えてしまう。
 そんな私にお隣さんは「クスリ」と笑って再び口を開く。
 「僕だって、隣人のお嬢さんに宇宙人だと思われていなんてわからなかったですよ」
 お隣さんはとても楽しそうで、とても意地悪な顔をしていた。
 その言葉と表情に私は自分の顔がカッと熱くる。やっぱりこの人は喰えない人だ。
 顔を逸らすと同時に私は話題も逸らす作戦を取る。
 「ところで、お隣さんの探し物ってなんだったんですか?」
 お隣さんは唐突に足を止めると、乳白色の青空を見上げながら、はぐらかす様に苦笑してこう言ったのだ。
 「“子供心”かな」