『取り戻したい』
私はその言葉に引っかかりながら、軽い返事だけをして、ポケットに手を突っ込む。すると、指先に硬い物がぶつかった。
 10年前に突然引っ越してきた隣人、10年前の鉄屑、公園、失くした物、取り戻したい。
 ……まさか!?
 鉄屑を取り出した私の脳内ではすべてが繋がった。

 「宇宙人って本当にいたんですね」
 鉄屑を握りしめ、お隣さんを見つめながら、小さな声でそう呟く。
 それを聞いたお隣さんは、不思議そうな顔をしている。
 だけど、その表情は握りしめていた鉄屑を見せると、一瞬だけ驚いた顔に変化し、次の瞬間には薄く笑みを浮かべていた。
 「僕の探し物を、未だに持ってる人がいたなんて」
 小さな声で彼は確かにそう呟く。
 それなりに仲良くして貰っていた隣人を失うのは悲しい。しかし、私は意を決してそっと鉄屑をお隣さんの手に渡そうと腕をのばした――と同時に裾を引っ張られた。
 「?」
 引っ張られたジャージの袖を辿ると、さっきから公園で遊んでいた子供の一人が真剣な顔で私を見つめている。そして、再び袖を引っ張りながら、口を開く。
 『それ、ぼく達のなんだ。返して』 真剣な顔で鉄屑を指さす少年。
 咄嗟にお隣さんの方を見ると、彼もとても真剣な表情をしながら子供を見つめている。 「でも、これは……」
 私は戸惑った。これは宇宙人であるお隣さんがUFOを動かす為に必要なもの。
 訳が分からなくなり、目を回していると、お隣さんが私の手から鉄屑を取ってその子供に渡す。
 「お隣さん?!」
 彼のとった行動に私はとても驚く。
 しかし、お隣さんは表情を変えずに子供を見る。
 鉄屑を受け取った子供はとても嬉しそうに笑うと、深くお辞儀をして遊具の方へ走って行った。
 「いいんですか!? あれはお隣さんの大切な物じゃないんですか!?」
 私はお隣さんの袖を引っ張りながら叫ぶ。そんな私と対照的にお隣さんは、黙ったまま薄く微笑み、さっきの子を指差す。