【1・あの日の落し物】

 小さい頃はいつもでも夢を見ていた。 そして、それが現実になる日を確かに信じていたのである――

 中学校の帰り道、少し変わった形の鉄屑を拾ったことがある。どこからどう見てもただのゴミ。
 でも、それをただのゴミで終わらせるのが嫌だった私は、誰にも言わなかったけれどその鉄屑を《宇宙人がUFOを動かす為の鍵》だと過程したのだ。
 それだけの事なのに、すごく楽しく感じたのを今でも覚えている。
 いつか、公園で何かを探す少年と出会って、仲良くなるの。だけどその子が宇宙人と気付き、離れたくない葛藤の中この鉄屑を返す。 
 幼い日の私はそんな来るはずのない“いつか”を楽しみに思っていた。 しかし、気が付けばそんな想像をしてから10年近くの歳月が経っているではないか。

 何故唐突に私がそんな事を思い出したかといえば、コンビニまで買い物に行こうと財布を放り投げたはずの物の山を捜索していると、あの鉄屑が出てきたからである。
 今見ると当時より汚らしい鉄屑だ。
 私はそれを捨てなければと思いながらも、そのままジャージのポケットに入れた。そして、買い物を終えた帰り道に、当時それを拾った公園に行きたくなったのは、何となくだ。
 後から思えば、これは全て偶然ではなかったのかもしれない……
 どこぞのインテリに言わせたら、防災上のなんたらだの、法律がどうこう言うに違いないけれど、神社でも潰されるご時世に不思議と公園という場所はいつまでも変わらずそこにある気がする。当時と変わらずも子供達が楽しそうに遊んでいるけれど、若干違和感を感じるのは遊具の色が違うのと自分の身長が変わった事が原因だろう。

 「こんにちは」
 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにはお隣さんがいた。
 お隣さんというのは、我が家に隣接する、蹴れば壊れそうな木造平屋の主。緩い癖毛と左目の下の泣きぼくろが特徴の一言でいえば優男。
 「こんにちは。お散歩ですか?」
 テンプレートな挨拶を返す。
 このお隣さんは何処となく不思議な雰囲気のあるけれど、10年程前からずっと隣に住んでいる極普通の隣人である。
 少し苦笑するとお隣さんは口を開く。
 「散歩もあるけど探し物ですかね? 時々、ふらりと探しに来てみるんです」
「そうなんですか。公園で物をなくすと出てこないんですよねー 子供が持って帰るから」
 隣人の回答に、遊んでいる子供達と自分の過去を重ねて返事をする。
 「まあ、それに僕がここでソレをなくしたのはずっと前ですから。
 でも、大切な物なので、いつか“取り戻したい”んですよ」
 苦笑したまま、お隣さんはこちらを向く。