昨晩、牧師はチェイテ城にいた。

『城内で流行病になり、死んだ娘がいる。身寄りのない娘だったので、その葬儀をして欲しい。』

これだけ聞けば、なんらおかしなところはない。
チェイテ城は山の上にあり、下界からは孤立しているので、麓の街の牧師が呼ばれる事もよくあることだ。
身寄りのない娘ということだし、葬儀をしてもらえるだけでも、情の厚い人物が城主だとうかがえる。

現在の城主はエルジェーベトで、彼女の夫、ナーダスディ・フェレンツから受け継いだ城だ。
留学生の支援などを行い、麓の街の住民から、支持を受けている美しいと噂の城主。
下働きであろう少女の葬儀をと望む、優しい心の持ち主。

しかし、不穏な噂も流れている。


“城に奉公に上がった娘が、手紙も寄越さず、一度も帰らない”