ありがとう、と、微笑んだ彼女の顔からは、少しだけ不安そうな表情が見て取れた。

「エメシェは何か用があってここに来たんじゃないのか?」

亮一郎の言葉に、エメシェは小さく頷く。

温められたスープの湯気の向こうの瞳は、心なしか潤んでいる。
普段とは違う彼女の様子に、2人は首をかしげるしかできない。

頷いた後じっとスープを見つめ、しばらくの沈黙が支配してから、エメシェは決意を秘めた眼を上げた。



「私、お城に奉公にあがる事にしたの。」



ぎゅ・・・と、カップを握る手に力がこもる。

まだ幼いレヴェンテを置いて、自分一人が豪奢な城へ奉公へ行くことは、ずっとためらわれてきた。


城では、食事に困ることも無く、着るものに困ることも無い。更には素晴らしい給金がもらえる。


そう聞かされ、エメシェの友人達は次々に城へ奉公にあがった。
エメシェ自身も多少の羨ましさはあったが、それ以上に弟が大切だったのだ。
だから、少し前に来た城からの勧誘も、断っている。

それでも彼女は、城に行くべき理由を見つけてしまった。