『熾天使―Seraphim―』


甘くてロマンチストだった僕は
世界を壊す寸前まで
それを望んでいた

天使に襲われて
押し倒された瞬間
背中で押した花瓶のように
カシャーンと絶望的な音を立てて
それは粉々に飛び散った

仰向けに倒れた背中一面に
突き刺さる世界の破片
激痛に叫ぶ僕の上に
馬乗りになって微笑むSeraphim
抱きしめられて焼けただれる
壊したのはこの世界だけじゃない
甘くて傍観者だった僕は
自分が世界に含まれることを
すっかり忘れていた
安直に望んだことの苛烈さが
僕にとっての罰
そして報酬
僕のこの世での存在の証は
ただそれだけ
ただそれだけが
血まみれの僕を生かしている
狂うことさえ許されない
呪いに似た真実のなかで