魔界に一人の堕天使が舞い降りた。その背中には大きな黒翼が突き出ている。

 その堕天使は、僅か一晩にして魔界全土を支配した。






 そして、その堕天使は魔王サタンと名乗った。





 悪魔たちは口々に言った。「魔物だ」「化け物だ」「獣だ」と。

 サタンは、天界での恐怖政治同様、自分以外の者を近寄らせなかった。

 自分以外の存在は悉く疎外し、敵と見なした。




 全てが気に入らなかった。


 全てが彼の敵であった。



 だから彼は自分の願望――天界への復讐という目的以外、魔界に生きとし生ける者全ての事象に対し無関心だった。

 だが、障害となる“事象”には容赦しなかった。




 一見完璧に見えた恐怖政治であった。だが、視点を返せばそれは、ただの無頓着であるといえる。

 つまりは傲りである。


 彼の全盛期は長くはなかった。