「私 そんなに落ち込んでましたか?」
「そうだね かなりへこんでたんじゃないの?」
「ご心配をおかけしました もう大丈夫ですから」
和音さんとの電話の後 気持ちを整理した
彼を思う気持ちは抑えられなかった
封じ込めるには大きくなりすぎていた
思いを伝えたことも 触れ合ったことも
まだ 鮮明な記憶として残されていた
でも きっと時間が解決してくれる
いつかは穏やかに話せるときがくると 自分に言い聞かせた
「遠野課長 今日は休んでるね」
遠野と名前を聞いただけで緊張した
昨日の午後から姿が見えないことは気がついていた
「お休みですか……出張かと思っていました」
努めて平静を保つ
「遠野君 風邪をひいたのか 熱を出したらしい
彼 一人暮らしだから 帰りにマンションに寄ってみようと思ってるんだ」
風邪? 熱があるって
仲村課長は 皿の野菜を切りながら 淡々と私に話しかける
「本当に風邪でしょうか いま肺炎が流行っているそうです
父が 先日寝込んでました
微熱が続いて 病院に行くのが遅れて大変だったと母が話してました」
冷静でいられなくなった
熱を出して 一人で苦しんでいる様子がチラチラと目の前に浮かぶ
「遠野課長は 病院へ行かれたんでしょうか 早目の処置が大事だそうです」
「いや そんな話はしてなかったな 今日は起き上がれないから寝てるとだけ」
仲村課長が心配そうに言う
「私これから遠野課長のところに行ってみます 午後から休暇をください」
私の様子に圧倒されたのか 仲村課長は 「わかった」 とひと言だけ答えた
出先から すぐに遠野さんのマンションに向かった
仲村課長が なぜ私に彼の事を告げたのか
その本心はわからなかったが
私が 遠野さんの元へ行くのを止めなかった
このとき 各務さんへ傾きかけた気持ちなど もうどこにもなかった
とにかく今は 彼の体が心配だった
マンションの玄関に着いてインターホンを押す
ドアを開けて そこに立っていた姿は 今にも倒れそうだった
「どうして君が……」
そう言うと 呆然としていた