するとそこには老人がカウンターにもたれかかるようにして座っていた。


「……!!」


 ミサトは、老人に駆け寄る。

 その身体を揺さぶると、老人はうっすらと目を開けた。

 腹を抱えるようにしているその手のひらからは、血が流れていて。


「ちょっと待ってて、救急車…!!」


 立ち上がろうとしたミサトを、老人は止めた。

 そして 、ゆっくりと首を横に振る。

 本当は、わかっていた。

 いくら救急車を呼んでも、もう……。

 ミサトは老人の手を握る。


「…そうか…ワシを看取ってくれるのは…お前さんじゃったか…」


 老人は、ふと笑顔を浮かべる。


「看取るつもりなんて、これっぽっちもなかったわ。誰がやったの?」

「………」


 消え入りそうな声で、老人は答えた。

 ミサトは、ぎゅっと奥歯を噛みしめる。


「ミサト…レンもユイも…本当…は…何もかも…元に戻したいと…」


 よく聞いていないと聞き取れないような声。

 ミサトはわかったよ、と頷く。

 きっと皆は、あの写真のような笑顔を取り戻したいのだ。