少し行くとタクシーは停車し、運転手はドアを開けてジェスチャーで降りろ、と言っているようだった。

 何気なく車を降りると、タクシーはすぐに立ち去る。


「え? ちょっと…!」


 日本語は通じない。

 ひゅう~っと風が吹き、ミサト一人、ゴミが散乱する裏通りに取り残された。


「あたしが行きたいのは“アゴーラ”っていう店なのよ! ってか、なんなのここはァ!!」


 タクシーが走り去った方向に、声の限り叫ぶ。

 だが戻ってくるはずもなく。

 周りを見渡しても、それらしい酒場もなく。

 それどころか、道端にたむろしている怪しげな連中からは、いやらしい目つきでじろじろ見られる始末。