「どうすんのこれ…」
ブラックジャックのルールくらいは知っていたが、本格的な賭け事はやったことがない。
呆然としていると、ディーラーの女が、ミサトの方にコインを一枚、投げてよこす。
「ここは現金は賭けられないわよ。そのコイン、使って?」
「あ、はい…って、あんた日本語喋れるんじゃない」
始めからそう言ってよ、とふてくされながらも、ミサトはカードを一枚めくった。
周りから、小さくどよめきが起きる。
一枚目は、スペードのエースだった。
女はじっと、ミサトを見つめている。
ミサトは恐る恐る二枚目のカードに手を伸ばす。
誰にも見られないように、そっとカードの端っこだけを持ち上げて、覗き込んで。
その時、突然ビップルームのガラスが、大きな音を立てて砕け散った。
「え?」
まさかとは思うが。
ざわめく客を無視して、ミサトはケースを持つと、音のした方に向き直る。

