「吉乃…。
 早く湯漬けの用意を!」



 「あっ…。
 はい…。
 兄上‥。」



 私はひとまず馬を屋敷の近くにつなぎ湯漬けの用意を手早くして殿に差し出した。


 「湯漬けでございます…。」


 お膳にのせた湯漬けを殿に差し出しておじぎをしてその場を退散しようとした時兄に声をかけた。


 「誰…?」


 兄と目が合い私は‥兄の横にとりあえず座った。



 「わたくしめの妹で吉乃と申します。
 ほれ…。
 吉乃ご挨拶…。」



 「吉乃…と申します。」


 兄に続き…手をつき深々と一礼した。



 「ふぅーん。
 八右衛門に妹がいたとは…初めて聞いた。」


 「はあ…。
 実は…出戻りでございまして…。」


 兄は私に目配せをしながら助け舟を求めた。


 「出戻り…?
 離縁されたと申すか?」


 「いえ…。
 離縁ではなく…夫が戦死いたしましてそれにて実家に戻ることになりました。」


 「戦死か…。
 夫の名は…。」



 バツが悪そうに兄上が首を振り私に合図した。


 「八右衛門…!」


 「はいっ‥!
 そうだ‥!
 吉乃…。
 殿の馬を洗って毛並みを整えて差し上げなさい‥!」