忍びの者は…先程衣服を剥がした順に習い…殿に剥ぎ取った衣服を着用させた。
「これにて…最後でございます。」
頭の兜にも似た被り物を受け取り装着した殿に忍びは…小太刀と膨らんだ巾着の布袋を渡した。
「御台様より…殿に少しばかりの餞別とお預かり頂きました。」
言い出したら聞かぬという手の内をよくわかっている濃の気遣いに感謝して受け取った。
「濃の奴に確かに受け取った…。
僧達の頼り知り合いの寺を頼るのだ…。
こちらも落ち着いたら文をだすと伝えよ…。」
「確かに承りましてございます。
この者の処分‥いかに‥?」
身ぐるみ剥がされた男を見て‥忍びの者は跪く。
「殺してはならぬ‥。
ここが‥どこかもわからぬ以上下手に手出しをすれば身の破滅も免れぬやもしれぬ。
このまま寝かせておけばよい。」
「もし‥目が覚めましたら‥?」
「その時は…もう一度気を失わせろ!」
目を光らせて声を潜め言い放ち濃からもらった餞別の巾着袋をあける。
巾着袋の中には金判がどっしりと入っているのを確認する。
「仰せのままに致します。」
忍びは一礼したのを確認した後…袋の中より金判を腹の腰に履いている衣服に挟んでおくと…忍びに無言で合図をして服の袂に小太刀と巾着袋をいれて穴へと戻った。

