琴美はスケッチブックを膝の上に広げ、
鉛筆を取り出しながら思い出す。



昨夜の夕飯時も楽しかった。

カレーライスもうまく出来た。

男の子たちがびっくりするくらい、
おかわりして、男兄弟のいない琴美の口はあんぐり開いたままになった。


調理中から、降矢と宇野が冗談ばかり言ってふざけまくるのに、川嶋先生も加わり、琴美はお腹を抱えて笑った。

三人の一年生は、下っ端だからと積極的に、麻衣と琴美を手伝ってくれた。


麻衣は琴美の耳元で
『降矢と宇野、なにもしない。』
とずっと文句を言っていた。

もう人手は足りているのに。

適当に調子を合わせていたけれど、内心耳障りで仕方なかった。



そして、夕方の水野ユリのメイクレッスン。



『あなたみたいな目の人は、アイメイク次第で、切れ長のエキゾチックな目になれるのよ。』



ユリは言葉通り、手持ちのメイク道具で、琴美の目をびっくりするくらいセクシーな切れ長の目にしてくれた。

やり方をすごく分かりやすく説明しながら。


「わあ…アジアンビューティって感じ…」

手鏡を見て琴美が感心して呟くと、

「でしょう!」

我が意を得たり、とユリが持っていた化粧ブラシを振って笑った。


一重まぶたの自分の目がこんなになるなんて、まるで魔法にかかったみたいだった。


嬉しくて琴美は、メイクのやり方を事細かに聞き、ユリは琴美の手を取って、分かりやすく教えてくれた。


「化粧したままでいることは出来ないね。川嶋先輩に怒られちゃう。」


帰り際に、ユリはそう言って、クレンジングシートで琴美のアイシャドウを素早く拭き取った。

(あーん、もうちょっとこのままでいたかったのにぃ…)

琴美はとても残念だったけれど、仕方な
い。





「…香坂、お前何やる人なの?」

ふいに、降矢が琴美に視線を投げる。


「えっ?」

琴美は焦った。
ここにいることをを咎められていると思った。


「俺は木版画。こいつは油絵。」


隣で既に絵を描き始めている宇野を指差す。

何のことかと思ったら秋の文化祭に出展する作品の話だった。

まさか彼は、琴美が夏限定の美術部員だなんて思いもしないのだろう。