琴美には、そこから先の記憶がなかった。
朝早かったので、身体を離すと同時に色んな疲れが出て、眠ってしまったのだろう。
少し気怠かった。
愛された余韻が身体のあちこちに残っていた。
「この島に来て良かった…」
目的を充分に遂げた事で、琴美は大満足し一人でクスッと笑う。
ふと時間が気になった。
「今、何時だろう…」
時間の感覚がなくなっていた。
ユリとの約束は七時だったから、そろそろシャワーを浴びて、準備しなくてはならないだろう。
そうでなくても、のんびり屋の琴美は、支度に時間がかかる。
「キャァ!」
ベッドサイドに置かれたデジタルの時計を見て、琴美は悲鳴を上げた。
午後6時40分を過ぎていた。
慌てて飛び起き、部屋の明かりを付けて、傍らの透に声を掛ける。
「透!起きて!七時になっちゃう!
早く行かないと。どうしよう!」
琴美が大声で言うのに、透の反応はない。
「どうしたの?起きてってば!」
透を起こそうとその体に触れた時
、異変に気付いた。
夫は寝ているのではない、とすぐに分かった。
透の顔は青ざめ、気を失っているようだった。
「嫌だ、どうしたの?起きて。
ユリさんとの約束の時間が来ちゃうよ。」
琴美は透の頬を何度か軽く打った。
透は力なくされるがままで、やはり反応はなかった。
明らかに普通ではない。
「ねえ、どうしたのよ!起きてよ!
ふざけるのやめてってば!」
パニックになりながら、琴美は透の身体にすがり、腕をとる。
脈があるか調べたかったのだが、気が焦り、脈を取ることが出来ない。
「死んでないよね、死んでないよね…」
落ち着かなければ、と琴美は自分に言い聞かせる。
透の身体の覆いかぶさり、心臓の音を聞こうとするが、これもよく分からなかった。
「救急車、呼んでもらわなくちゃ!」
琴美は、あまりにも大変なことが起こってしまった現実に耐えられなくなり、何時の間にか、泣き出していた。
フロントにコールしている間に、全身が震えだした。

