「あっ…ユリさん!」


琴美は叫んで指を指していた。



忘れもしない。

抜けるような白い肌、大きな茶色い瞳。

つんと突き出た小さな鼻。


まるで、人形のようなユリは琴美の35年の人生の知っている中でもっとも美しく魅力的な女性だったから。

間違いなかった。



女は目を見開き、口をポカンと開けていた。


琴美はプールサイドから叫んだ。



「水野さん、水野ユリさんですよね?
覚えてないですか?
私、琴美です。香坂琴美。
昔、美術部の合宿でユリさん、モデルやってくれましたよね!」



女は口に手を当て、イヤーッと大声を上げた。


「思い出した!
川嶋先輩に頼まれて、絵のモデルやったの。高校生だったよね?
小っちゃくて、八重歯が可愛い子だなって思ったから印象に残ってる!」



ユリは琴美との再会をとても喜び、カフェに誘った。



部屋で寝ている透からはなんの連絡もない。

起きたら、琴美の携帯にメールなり電話なりするはずだ。


琴美はユリの誘いにのった。






「私、一昨日からここに来ているの。
ここのスコーン、美味しいのよ。」


天井のラタン飾りのシーリングファンが廻る落ち着いた店内で、二人がけの席に向かい合って座り、ユリは屈託ない笑顔で言った。


琥珀色のアイスティのストローを咥えるユリの艶やかな唇に、琴美は一瞬見とれてしまった。



ユリは琴美が高校生の時、すでに20代半ばだったはずだ。
ということは今、目の前にいるユリは40歳を超えている。



薄化粧の白い頬にはシミ一つないし、茶色の瞳は輝いている。


クリーム色のノースリーブのブラウスから伸びる二の腕も、昔と変わらず細く白かった。


強いていえば目の辺りが少し柔らかくなった感じがするくらいで、とてもそんな風には見えなかった。