隠し事をしていることに、胸が息苦しくなる。


かといって、全てを洗いざらい告白して懺悔することなどとても出来なかった。



透は繊細な男だ。



かつて降矢ケンは、透が顧問を務める美術部で木版画をやっていた。


教え子の降矢と妻が不倫の関係だったと知ったら、透の精神状態はまた元に戻ってしまうだろう。



琴美は頭を振る。


懺悔など必要ない。




降矢の事は一生思い出さないようにしよう。




あれは幻だ。


満たされない心が見させた白昼夢だったんだ…







室内プールは敷地内のはずれにあった。


琴美が服のまま、中に入ると、皆、この時間にはビーチか屋外プールへいってしまうのか、高い天井の25メートルプールは閑散としていて、一組のカップルがいるだけだった。



「日焼けしたくないから、こっちの方がいいかな…」


琴美は独り言を言って、いくつかの白いデッキチェアが置かれたプールサイドを歩いた。



向こうはじのプールサイドにいるカップルが、やたらといちゃついていた。


琴美は苦笑した。


見ないようにしていたが、つい目がいってしまう。



短躯でたぬき顏の男の方は、腹の突き出た見事な中年太りの体型でトランクス型の水着のウエストに腹の肉が乗っていた。


二の腕も、だらしなくたるんでいる。



そんな男が嬉しそうに絡みつくセミロングヘアの女は、スレンダーな身体に白いビキニを身につけ、はしゃぎ、大きな嬌声をあげていた。



男は、プールサイドに腰掛けた女の背後から抱きつき、今にも不埒な行為に及びそうだった。




「嫌だあ、やめて。
誰か来たから。」



女は甘えた声で男の手を塞ぎ、琴美の方を見た。


目があった。