あと、透のリクエストー


シースルーのランジェリーも用意してきた。




淡いピンク色の、胸が丸見えになる刺激的なベビードール。揃いのTバック、ストッキング、ガーターベルト…



通販で買ってもよかったが、やはり実際に手に取ってみないと分からないと一人で渋谷に買いに行った。


これを下着屋で選び、コギャルみたいな店員に差し出すのは、かなり恥ずかしく勇気がいった。

なんか言われたらどうしようと思った。



35歳でも小柄な琴美は年齢よりずっと若く見えるから、店員に、ジロジロ見られることもなかった。

店を出た途端、琴美はホッと胸を撫で下ろした。



裾にたくさんのフリルの付いたそのベビードールを着た琴美は、過激にセクシーな女に変身し、これなら透も気に入ってくれるだろう、と嬉しくなった。



大の大人がこんなことに必死になるなんて、傍から見たら、滑稽そのものだが、琴美は透が驚き、喜ぶ顔が見たかった。

罪滅ぼしがしたかったのかもしれない。






船着き場から乗ったシャトルバスを降り、赤い屋根のコテージが並ぶ敷地内に入ると、手入れの行き届いた熱帯の植物たちが、琴美たちを出迎えてくれた。


「うわあ、すごい….」



琴美は透の腕にしがみつく。


ハイビスカス、ブーゲンビリア、不思議な形の極楽草。


植物が好きな透は喜々として、琴美に花の名前を教えてくれる。



「うちの庭も綺麗にしないとなあ。」

透が独り言のように言う。

自宅の狭い花壇に花を植えるのも透の仕事だった。


元気な頃は季節ごとに様々な種類の花の苗を植え、見頃な庭を作っていたが、今は時々琴美が雑草を引き抜くだけの味気ないものになっていた。


荒れた庭は、透の精神状態そのもののようで、琴美の胸は痛んだ。




夏休みでチェックインをするセントラル
ハウスは家族連れで賑わっていたが、一歩外へ出ると、赤い屋根のコテージが建ち並ぶのんびりとした光景が広がり、時々、人とすれ違う程度だった。