透は柔和な目で琴美を見詰める。


その目を見た途端、琴美は自分の犯した罪の重さを知った。


自分はこんなに自分を想ってくれる男を裏切った。


一度ではない。
何度も。何度も。

友達と会うと嘘をついて。


過ちでは済まされない。
自分も愉しんだのだから。


初めて後悔した。猛烈に。



なんて愚かだったんだろう…

どうして遠い日の想い出のままに出来なかったんだろう…


目頭が熱くなり、目の前が霞んだ。




その夜、透が琴美を求めてきた。


以前のような夫婦生活を取り戻すべく、試みた。先週も一度試し、二度目だった。


一度目は、久しぶりのことで、透は緊張したのか、最後まで遂げることが出来なかった。


『こんなはずじゃなかったんだけど…』

暗闇のベッドの中で琴美を腕の中に抱い
て、透は呟いた。



『そんなのいい。
透を感じるだけで私は満足なの。』


琴美は夫にしがみついた。

言葉は紛れもなく本心だ。抱き合えるだけで、琴美は充分だった。




しかし、再度の試みでも、どうしてもクライマックスで透は萎えてしまい、うまくいなかった。


「気にしないで。」


裸のまま、透のベッドで寄り添い、琴美は努めて明るく言った。


透も「うん。」とうなづくが、琴美は内心、夫が自分の身体に飽きたから、こうなるのではないかと思ってしまう。


本当なら、欲望が満たされ、気怠く寝物語に入っているはずなのに。


中途半端な状況で二人とも黙り込んでしまった。



透は、仰臥したまま、暗い寝室の天井をぼんやりと見つめ、
「俺、EDかもしれないなあ…」
と呟いた。


こんな時、妻はどんな言葉を返したら良いのだろう。


答えあぐねていると、いきなり、透は、琴美の方をくるりと体ごと向いて言った。


「今度、ラブホテル行ってみようか?」


透の提案に琴美の心臓は、一瞬、どきりとする。

降矢を思い出してしまった。

振り払うように、ふっと笑う。