「…やだよ。旦那なんて関係ねえよ。」
その瞬間、ユリが目を大きく見開いた。
眉を歪め、何か言いたげに口が開いたままになった。
ケンはベッドに乗ったまま、ドレッサーの前に座るユリににじり寄る。
「ユリ、旦那と別れて、俺と結婚してよ!そしたら、ずっと一緒にいられる。
俺、働くからさ!」
ケンは、大きな打開案を思いついたように言った。
歪めていた眉を緩め、ユリは「ふっ」と笑った。
「嫌だ。冗談はやめてよ。
そんなこと出来るわけないじゃない。」
ケンは唖然とした。
ジョウダンハヤメテヨ…だって?
冗談?
こんなこと、冗談で言う人間がいるだろうか。
ユリは立ち上がり、ベッドの上で這いつくばる格好のケンを見降ろす。
「最初から分かってたのに、そんな風に言われても困っちゃう。
私たちの行く末に未来なんてないの。
きれいに別れましょ。
こんなこと、言わせないで。」
「…」
これまで聞いたことがない、冷たいユリの言葉だった。
なんでもさせてくれた、優しいユリが豹変した。
いつも天使みたいな笑顔で自分を見てくれていたユリが…
ケンの知らない名前の料理やお菓子を作って、振舞ってくれたユリが。
そして、ケンは重大なルール違反をしてしまう。
気が付くと、ユリを乱暴にベッドに押し倒していた。
華奢なユリの身体を組み伏して、自分の全体重をかける。
ユリのバスローブの胸元が大きく乱れ、片方の乳房が露出した。
思い切りの力でユリの両手首を押さえ付け、自由を奪った。
「ひでえな。散々遊んで、飽きたらポイ捨てかよ?
旦那に全部バラしてやるからな!」
ユリの耳元で囁くように言う。
ユリは苦しげに眉根を寄せ、唇を歪ませた。
上を向いたまつ毛がわずかに震えていた。
ユリの茶色い瞳が潤むのは、本当は自分を愛しているせいだとケンは信じていた。

