琴美に女性の悦びを教えてくれたのは、透だ。


いつも受け身な琴美だったけれど、毎夜、当たり前のように琴美に背を向けて寝る透の姿を見ると、とても淋しかった。


この状況で、抱いて欲しいなどとは言い出せず、それも黙って諦めるしかなかった。





同窓会は、横浜駅に程近いホテルで開かれた。


宴会場の受付の前で、琴美が名札を受け取り、会場の扉を開けると、中にいた背の高い男と目が合った。

すぐに、降矢ケンだとわかる。


「おっ。香坂じゃん。久しぶり!」

降矢が片手を軽く上げ、琴美に声を掛けてきた。

降矢は、ダークグレーのスーツに青と紫の細いストライプの洒落たネクタイを締め、若い頃と同じく、髪を短く刈り込んでいた。


「うわあ、降矢くん、久しぶり。
元気だった?」


目が合った瞬間、琴美は怯んでしまったのに、過去のことなど何も気にせず、降矢が親しげにしてくれたことが嬉しかった。


(念入りにユリさんに教わった切れ長アイメイクをして、一番お気に入りのラメ入りのシックな黒いワンピースを着てきて良かったあ…)


麻衣は来ておらず、琴美は胸を撫で下ろした。

三年に進級してから、麻衣とはクラスが別れた。
麻衣は琴美を露骨に嫌い、結局ずっと険悪なまま卒業した。



久しぶりの同窓会で、容貌のかわってしまった者が多かった。


いつも教室の端で本を読んでいたような地味な女生徒が、華やかに変身を遂げていて、琴美は目を見張る。

男子生徒は、あまり褒められない方向にいってしまった者が多い気がした。


痩せていたのに、見る影もなく太ってしまったり、ボサボサだった髪がすっかり薄くなったり。

仕方が無い。
あれから、18年もの歳月が流れたのだ。


一見しただけでは、誰が誰だか分からない会場の中、降矢は17歳の頃の面影を十分に残していた。



降矢は、琴美にグラスを手渡し、ビールを注いでくれる。

「おかげさんで元気にやってるよ。
琴美も相変わらずだね。」


降矢が『琴美』と呼んだことに、琴美のグラスを持つ指はぴくり、とする。