夏の暑い時になんとも楽しめなさそうなイベントだが、仕方ない。


(これも友達のためだ…もしかしたら、いいことあるかもしれないし…)

ボーイフレンドのボの字も縁がない琴美は、夏休みの予定といえば、バイトと夏祭りに友達と行く事と塾の夏期講習ぐらいだった。



その日の為に大きなスケッチブックとデッサン用の鉛筆を買う羽目になった。

麻衣がどわざわざ琴美の家に
「揃えておいて。」と電話してきた。

(がーん。合宿費の他にこんな出費があるとは…)

電話口で琴美はガッカリした。



合宿の日は、夏休みに入ってすぐの一泊二日。
学校の校舎を借りて行われる、お手軽合宿だ。




合宿の日は、朝から夏雲が広がり、とても暑い日だった。


「行ってきまーす。お母さん、ゴウの散歩よろしくね。」

ゴウは繋がれたまま、ワンワン吠え、母と共に送り出してくれた。

プリントTシャツにカーキ色のサブリナパンツ姿の琴美は、一泊分の着替えとスケッチブックを持って、学校へ向かった。

午後のフリータイムは何をしても良い、と麻衣が言っていたので、琴美は未読の漫画を何冊かスポーツバックに忍ばせた。


偶然に校門で麻衣と出会う。
麻衣は黒と白のボーダーシャツ、紺のミニスカートに黒いスパッツを合わせていた。

「麻衣の格好、可愛い!」

麻衣に笑顔で言いながら、琴美は思う。

(麻衣って、顔は可愛いのに、銀縁の教育ママみたいな眼鏡掛けてるからダサくなっちゃうんだよね…)

琴美も人のことは言えないのだが、自分のこととなると客観的にみれなかった。


午前八時半、集合場所の校舎二階にある空き教室に全員が集まった。

この教室は今夜、琴美たちの宿泊場所となる。
男子は、別棟にある武道場にて宿泊することになっていた。


空き教室は、廊下側にいくつか机と椅子が置いてあり、あとはすべて後方に寄せ、スペースを確保してあった。


「各自、椅子を持ってきて。」

荷物を降ろすなり、麻衣が部員達に言った。
ここで皆で絵を描くと言う。

「ええ…そんなあ。この暑いのに。」
戸惑う琴美に

「当たり前でしょ。」

麻衣は眼鏡を光らせてキッパリといった。

ニセ部員の琴美に、お前、何しにきたの
?みたいな視線を投げる男子部員達。

皆、Tシャツにジーパンかチノパンという似たような格好だ。


「なんだ、課題あるのかよ。
自由にやらせてくれよ。」

降矢ケンというスポーツ刈りの二年の男子生徒が、文句みたいに麻衣にいった。