「レディは凄いな。
逞しく、生きる術を知っている。」

目許を和ませたハインツは
可笑しそうに肩を揺らした。

「?で、殿下?」

「これから君に話す条件は
きっと、そんなに悪くはないと思う。
ただ、一芝居する必要があるが
君なら恐らく問題ないだろう。
―――どうだろう?」

「ちょ、ちょっとお待ちください、殿下。
なにがなんだかさっぱり…」

「私なら、君の衣食住を保証できる。
どうかな。もし、レディさえ良ければ
私と手を組んでみないか?」

悪戯めいた微笑みでハインツは
ジルに先程と同じように手を差し出した。

どちみち、一度は死んだようなものだ。
生きてゆく術があるなら、すがりたい。
そして、いつか。

(叔母様に復讐を、する。)

復讐という言葉の、
なんて恐ろしい響きだろう。
明日生きているか分からない生活より、
しっかりと整った舞台でその方法を考える。

それでも、良い。いや、その方が良い。
ジルは、ハインツの手をとった。
今度こそ、躊躇わずに。

「―――よろしくお願いします。殿下」

こうして、ジルの運命の歯車は
回り始めた―――。